私のコーヒー、彼のタバコ

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 そう言って彼は、百円玉と十円玉を、それぞれ二枚、手の上に置いて私に差し出した。  わかりました、と返事をしてそれを受け取る。 「あ、俺のも頼む」  言って、銀色に輝く硬貨を一枚出してきたのは、社会科の先生。 「俺もー」  それに物理の先生が乗っかってくるのは、最早いつもの光景である。  それぞれから百円玉を一枚ずつ受け取り、職員室を出た。  一階を除く各階の廊下の端に設置された自販機のうち、二階にあるそれを目指して階段を上る。  職員室のある一階に作らないから、教員方がめんどくさがって私がパシらされるのだ。別にいいけど。  テストのミスを思い出しながら階段を上って、廊下に出て右に曲がってすぐの自販機で、頼まれた物を買う。  誰が何を望んでいるのかは聞いていないが、聞かずともわかる。  何も言わなかったということは、つまりいつものでいいということだ。多分。  眼鏡こと彼には、少し迷ったが百十円のココア。それから、社会科の先生はミックスジュース(九十円)、物理の先生のいちごみるく(百円)。  買っていいと言われた私の分はココアと同価格のブラックコーヒーだ。最初の頃は女子らしくないと驚かれたものだが、もうなれているのだろう、教員方も何も言ってこない。  因みに、紙パックのいちごみるく以外は缶だ。
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