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「遅かったね」
「無茶言ったのはアンタでしょうよ」
「は、違いない」
ココアを手渡して、彼の隣に立つ。
彼がプルタブを開けるのを確認して、自分もコーヒーを開ける。
カシュ、と音がした。
「なんでココアだよ」
「寒いでしょうよ」
「今日はコーヒーでもよかった」
「……」
「ココアでも、別にいいけどね」
いつもは微糖のコーヒー。寒い日はココアがいい。
そう彼が言ってきたのは、一年前のこの時期だった。寒くなりはじめて、そろそろ温かい物を飲みたくなる、この時期。
それからは、私の独断と偏見で、どちらにするか決めていた。
今日は寒いから、ココアにしておいたのだが。
「失敗した……かな」
ぽつり、呟いた。
彼の飲み物のチョイスも、テストも。
「……」
彼がため息を吐いたのがわかった。
「……馬鹿。俯いてんなよ」
「わっ、なに、」
言葉と共に、頭をワシャワシャと撫で回される。撫でるというか、かき回す、であるが。
「しょうもねぇ」
「えぇ……」
「一問二問ミスった程度で、泣きそうな顔してんなよ」
「……は、」
「前向いて笑ってろよ、らしくねぇな、もう」
右側にいる彼を一瞥し、違う意味で出てきそうな涙を堪える。右耳に髪を掛けた。
「……髪が」
乱れるだろう。
言ってから缶を傾けてコーヒーを流し込み、煙を燻らせる彼を見た。
苦味は胸の中のつっかえを連れて喉元を過ぎた。
《end》
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