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僕は彼女の腕を引きながら、とある場所に向かった。
そこは普段、人が絶対に立ち入らない場所である秘密の部屋だ。
噂では夜な夜な女の子の鳴き声がするだとかなんとか。
誉「はぁ…はぁ…」
僕はふと我に返り彼女の方を振り返った。
息を切らし肩で息継ぎを何回も繰り返している姿を見ただけで、彼女の疲労と僕のしたことの最低さを感じ取れる。
誉「ご、ごめん橘華さん!大丈夫…じゃ…ないよ…ね…」
語尾が極端に弱くなってしまう。
こんな女の子を引っ張った上に走ったのだ。
掴んでいた腕を離し僕は少し彼女と距離を置く。
唯「はぁ…はぁ………へへ」
彼女は下に向けていた顔をこちらに向けて笑ったのだ。
僕は酷く驚いた顔をしていたことだろう。
唯「やっと、2人きりになれたね。誉くんに話したいことあるんだ」
さっきの笑っていた表情から、今度は微笑みを混ぜた真剣な顔つきに変わる。
ただ、少し違和感を感じる。
何かがさっきと違う。
でも、懐かしい様な気も……。
………あっ。
誉「今、名前で…」
そうだ。
幼い頃の彼女は僕のことを下の名前で呼んでいた。
いつも僕の横にいた少女は、今目の前で笑って答えてくれた。
唯「さっきはごめんね。でも、ちゃんと覚えてるよ。会えて本当に嬉しいよ誉くん」
走ったからかわからないが頬を赤く染め、照れながらに彼女は笑ってくれた。
それと同時に、もう二度と会えないと思っていた彼女との記憶が蘇ってくる。
その場に僕は座り込み、情けない話だが少し涙が出そうになった。
誉「はは……。よかった…」
授業の予鈴が鳴る音が聞こえた。
今日は始業式の前にちょっとしたHRがあったんだっけ。
3年生になった初日、僕と唯ちゃんは授業をサボってしまったのであった。
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