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水道から墓に帰る途中、これからここに墓を建てるのであろう人たちとすれ違った。業者の人とああでもない、こうでもないと入念に話し込んでいる様子である。うちの墓はあそこにあるが、一から建てるとなると自分ならどんな墓を建てるのだろう、などと思いながら私は花瓶を持って戻る。
そう言えば母がもし自分の墓を建てられるのであれば「無」と刻んでほしいと言っていた。誰かを傷つけたかもしれない罪も悔しさも後悔も全てを無にしたいと。私は、「無」は少し寂しすぎるのではないかと言った。悩んで苦しんで、でもそれが生きた証なのではないかと私は思うからだ。人とは必ず何かを残すものだと私は思うからだ。残せるものが、例え小さな破片でも。そして、残った人の記憶の片隅でも。
近くにバスケットボール型の石が置いてある墓がある。きっとバスケットの好きな方が亡くなったのだろう。もしかするとまだ若かったのかもしれない。これは故人を偲んで残された人たちが作ったものなのだ。
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