坂の上の墓

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 私の左手の親指の爪は横に平たく、右手の親指の爪の半分くらいしか縦幅がない。昔はこの爪がコンプレックスで、左手の親指を隠しながらずっと生きてきた。でも今は何とも思わなくなった。何故隠す必要があったのか。何故恥ずかしかったのか。祖母が両手ともこういう爪をしている。私は祖母の遺伝を恥ずかしいと言っていたようなものなのだ。その考えの方が恥ずかしい。 「一緒に掃除してくれてありがとう」 「いえいえ。それよりなんてまた冷たい手」 そう言って夫は私の手をぎゅうっと両手で温めてくれた。私は酷い冷え性で、いつも夫にびっくりされる。そして気付いてくれるたびに温めてくれるのだ。私の手が完全に温まるまで。夫の手は、いつも温かい。
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