巣立つ彼女の忘れ物

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 出発早々なんなんだと、尻ポケットに入れていた携帯を取り出してメールを開く。と、そこには少ない文字とムンクの叫びの絵文字が表れた。文字をもう一度追うが、『ペン崎(ざき)さん忘れたー』で間違いはないようだ。  ――なんだって!?  思わず叫んでしまいそうになったが、寸でのところで飲み込み事なきを得た。往来で声を上げるのはマナー違反だろう。  メールに書かれている『ペン崎さん』とは、小さい頃に京急油壺マリンパーク――平たくいえば水族館に行ったときに買ったペンギンのぬいぐるみだ。俺もカメのぬいぐるみを買っており、こちらは『カメ野さん』と名付けていた。なぜなら俺たちの名字は崎野(さきの)だからである。つまり、名字から一字ずついただいたのだ。といっても、『ペンさきさん』だと言いにくいから、濁点が付きましたけどね。  急いで調べたところによれば、ぬいぐるみは通信販売もしているようで件のペンギンやカメ、イルカなど種類もあるらしい。グッズも通販ができるらしく、本当に便利な世の中だなーとつくづく思った。距離的には近い方なので何度も足を運んでいたが、通販なんてやってたのかよ……。時間の融通が利く通販はいいな。よし、今度クッキーを取り寄せよう。  そんなことを思いながらも、『なんで忘れるんだよ』と呆れの絵文字入りで送り返せば、『カバンに入れようと思って本棚の上に置いておいたのをすっかり忘れてたの』とビックリマークの絵文字入りですぐさま返信が来た。要は、最後の最後にカバンに入れようとして忘れたということか。出てくるときに確認ぐらいしろよ!
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