巣立つ彼女の忘れ物

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 返信をする前に、もう一通新しいメールが届いた。開くとすぐに『届けて』の三文字が目に入る。というか、その三文字しかない。  届けるべきか、届けないべきか――。いちいち感慨に耽っているが、俺はもう決めていた。  妹が『お兄ちゃんは私を寝かせたくないんだね?』と不満そうに宣うことは確実であろう。すなわち、妹はペン崎さんがないと眠れないわけである。――ペン崎さんを手に入れたその日から。  されどぬいぐるみであるが、世の中にはぬいぐるみがないと眠れない人もいる。うちの妹のように。  そして俺はといえば、妹に勝てたことがない男なのだ。たとえ時間がなかろうとも、『届ける』という選択しかあり得ない。  急いでスクーターを走らせて家に帰り、ペン崎さんを適当な袋に詰めてふたたびスクーターを飛ばした。そうして電車に乗り込み――どうやらたまたま空(す)いていたらしい――席で一息吐く。  数十分電車に揺られ、やってきたのは隣の県である。改札を出た駅構内の一角に、妹の姿があった。疲れた顔をして柱に凭れている。だが、俺を見つけたとたん、その顔に笑みを溢した。「お兄ちゃん!」と。まあ、俺にというよりかは、ペン崎さんにだけれど。
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