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小さい頃は『お兄ちゃん』だけだったが、大きくなるにつれて『兄貴』も加わった。高校生になれば『兄貴』に統一されていたのに、ふとした拍子に『お兄ちゃん』に戻るのだ。気がついているのか、いないのかは解らないが、計算だったのなら恐ろしい子だ。
『お兄ちゃん』は、魔法の言葉なのだから。
手渡したペン崎さんを抱きしめた妹は、「あ~、これこれ、これだよ~」と歓喜の声を上げる。いやー、喜んでくれてなによりですよ。
息を整える俺に向き直った妹は、「ありがとう、お兄ちゃん」とさきほどとはまた違う満面の笑みを浮かべた。
――ああ、本当に、妹は俺を使うのが上手い。
この笑顔が見られるのなら、多少の無理などなんともないと思ってしまうんだから。
いくら地元を離れていくといっても、電車で数分とすぐに会える距離にいる。――すなわち、妹に弱い俺は、これからも彼女の忘れ物を届けに行くんだろうなと確信してしまった。
(了)
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