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その十字路に差しかかったとき、辺りの空気が変わった気がした。
違和感があった。
私は付近を見回したが、手には長ネギが飛び出したスーパーの袋を持ち、いつものように人通りの少ない裏道を歩いていた。
振り向くと、こちらに背を向けた老婆が遠ざかっていくのが見えた。
違和感はあるが、何かはわからなかった。
気を取り直して家に向かう道を歩いた。仕事をどう進めるか、どこかに遊びに行きたいな、などと考え事をしているうちに自宅についた。
鍵を開けて中へ入った。「ただいま」と口にすることもなければ「おかえり」と声をかけられることもない、独り暮らしなのだから当然だ。
スーパーで買ってきた野菜や肉を冷蔵庫におさめていく。スーパーに行く日は、月曜日と水曜日、そして金曜日だ。人の多い休日を避けて平日に二日置きと決めている。リズムを整えることは体調管理の基本だ。
ポケットから財布と携帯電話を取り出して、机の上へ置いた。
携帯電話を見ると、誰からか連絡がきたことがわかった。何かあれば震えてわかるはずなのだが、と思いつつ内容を確認した。
「体調不良でしょうか? 連絡お待ちしてます」
そのようなメールや留守番電話がいくつかある。私はどこかに出社するのではなく、自宅で仕事を行っている。その取引相手の一人からの連絡だった。
おかしいな、何か心配させるようなことをしただろうか。連絡の内容をさらに調べると定期的におこなっている電話での打ち合わせをすっぽかしてしまったらしい。
いや、はっきり言って私はスケジュールはかなりしっかりと管理するほうであるし、スケジュール自体も少ない。忘れるはずはないだろう。しかも、打ち合わせの電話は『今日これから』だろう。スーパーから戻ったらちょうど良い時間になるはずだった。
さらに連絡を確認して気づいたことがあった、今日の曜日だ。
『火曜日』となっている。
火曜日? いや、今日は週明けの月曜でスーパーに行く日だった。どういうことだ。やや混乱しつつも、取引相手の心象を損ねてはならないと思い、電話で謝罪をした。
自宅で毎日過ごしていると曜日感覚が薄れたり、数日前に何をしていたか曖昧になることがある。それはあるが、丸っきり抜け落ちている。というのはどうしたことか。
精神的な体調不良を疑うなどして、その日はあまりよく眠れなかった。
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