ぬすみぐい

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 一晩明けて、金曜日になった。  やや強い風が吹いているのを窓の震えで感じながら私は起床した。  いつものように仕事をしようとするが、自分の身に起きた不可思議な現象が気になって、どうしても手が進まない。  冷蔵庫の中には、やはり一日分の余りがある。明日は祝日だ、混雑するだろうし、やはり今日、買い物に行っておくべきだろう。  曇り空。強い風が時おり吹き付けて、ただでさえ混乱した思考を乱す。  スーパーはやはり何も変わらない、いつもの風景だ。  家を出るときは歩く道を変えたほうが良いかなどとも考えていたが、スーパーから出るころにはすっかり忘れて、いつも通りの道を歩いていた。  目の前から老婆が歩いてくる。  十字路ですれ違う。いつも同じ場所ですれ違う。  そうだ。 「すみません」  声をかけると、老婆は表情を変えずに「なんだい?」と応えた。 「最近よく、おばあちゃんとすれ違っていると思うんですが。『昨日』はすれ違いましたっけ?」  老婆は解釈の難しい笑顔を作り、 「ああ、ここのところ『毎日』すれ違っとるよ」  言いながら老婆は歩き出していってしまった。  また雨が降り出した。  降り出したというか、気がついたら降っていた。  恐る恐る携帯電話を確認した私は、今日が「土曜日」だと気がついた。  自分が何を体験しているのか、自分がどうなっているのか、自分が何なのか、全ての思考は雨と共にどこかへ流れていってしまった。  立ち尽くす私の後ろ、遠ざかっていく老婆の口から漏れた言葉の意味は、私には理解できなかった。 「ご馳走様」
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