8(承前)

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「萬(よろず)家の科学者は長さ700キロのくろがねワイヤーで実験をおこなったわ。光の速さは秒速30万キロ。それでもこの距離の伝送には0.0023秒はかかるはず。だけど何回試しても、結果は同じ。伝達時間はゼロだった」 「そんなはずがない」  萬満千留(みちる)の言葉につぶやき返したのはジョージだった。 「物理法則に違反している」 「誰でもそう思うわよね。でも実験は複数の科学者によって何度も試され、くろがねの無速度伝達は再現性が証明されている。一方の端で人の意思を感じると全長700キロのくろがねのワイヤーは、その瞬間全長が同じように変化するの。人の意思を反映してね」 「へえ、すげえな。光よりも速いのか」  クニがのんびりそういうと、ジョージが肩をすくめた。 「そうか、クニは物理が苦手だったよね。くろがねのワイヤーを、今ぼくたちが大陸間通信につかっている海底ケーブルみたいに宇宙に張り巡らすことができるなら、時差のない通信網で宇宙全体を覆うことができる。ゼロ時間で何百光年も離れた星と会話ができるんだぞ。くろがねと三種の神器はとんでもない可能性を秘めてるよ」  ミチルがジョージに微笑(ほほえ)んだ。 「さすがは東島一の秀才だけのことがあるわね。通信用のワイヤーもいいけど、科学者たちは宇宙船についても話をしている」
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