8(承前)

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 タツオの胸のなかが氷の海のように冷えこんでいく。死んだ東園寺(とうおんじ)崋山(かざん)がいっていた。今回の本土決戦のための防御型『須佐乃男』に続いて、進駐軍の開発局と五王重工は世界戦争を終わらせるための攻撃型『須佐乃男』の開発に着手しているという。  そのロボット兵器が完成したとき、世界の軍事バランスはどう変化するのだろうか。進駐軍の士官養成高校に過ぎない東島にこれほど敵対勢力からの干渉があったのも、『須佐乃男』の圧倒的な威力を考えれば無理もなかった。そのために15~16歳の多くの少年たちが死んでいったのだ。タツオは唇(くちびる)を噛み締めて耐えた。 「すげえよな」  そういったのはテルだった。ぴしりと音が鳴って、軍用義手のなかのクリスタルグラスが粉々に砕け散る。目には狂おしい光が揺れている。 「本土防衛の決戦まで追い詰められた日乃元が決戦兵器一発で、大逆転を狙えるかもしれないんだ。うまくすれば、『須佐乃男』で、おれたちは世界を、いや地球という星をひとつ手にできるかもしれないぞ」  ジョージは冷静だった。肩をすくめるといった。 「瞬間的に軍事上の勝利はつかめるかもしれない。だけど、くろがねの三種の神器は『須佐乃男』2台分なんだろ。世界戦争に勝ったあとで、どうやって世界を治めるんだ。補修パーツが製造不可能な状態で戦いを続ければ、ロボット兵器だってしだいに損耗(そんもう)していく。どんなに強い兵器があっても、戦争に勝つことと世界を統治することは、まったく別ものだ」
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