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プロローグ ~僕が、彼女に出会ってから~
1 二〇二四 文月――末
――キーンコーン……。
鐘が鳴っていた。教師の声が教室の隅々まで響き渡る中、それを真っ向から遮るように、聞き慣れたリズムの良い音階が校舎全体に響いている。
「なんだ……もう時間か。切りの悪いところで終わると、次回が面倒なんだがなぁ」
室内の全員に聞こえるようなわかりやすい声で放たれる呟きに、周りの皆はげんなりする。
夏真っ盛り。梅雨が明け、夏季休業も明日に迫る今日この日に、いったいどれほどの数の高校生が、殊勝にも授業に耳を傾けるのだろう。しかも高校二年生の教室である。夏だけでなく中弛みも真っ盛り。おそらくはほとんど、いや、ほぼ全てと言って良いだろう数の生徒が、目の前で餌をお預けされた犬のような感覚で夏休みを待っているに違いなかった。
もちろん僕も、その一人に含まれないと胸を張れる自信なんて、持ち合わせていやしない。皆と同じく、教壇から降る呪詛の終わりを切に待ち望んでいるのだ。
しかしそういう望みに限って、恨めしくも事は上手く運ばないものである。
「済まないが、少し延長させてくれ。都合上、ここで終わるのはどうも良くない」
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