一章   名のない花 1

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 ただそれも、使い古されてくたびれたコンビニのビニール傘では、相手の抱く罪悪感なんて知れたものだろう。そして僕には、同じように他人のビニール傘を拝借する度胸がない。  とにかくこれで僕は、この止む気配のない降り続く雨の中を、何の装備もなしに帰る羽目になってしまったのだった。  どうしたものか、と悩み果てる。  結局のところ、止む気配がないと自分でわかっていながら、院外に設置された休憩所で雨宿りをしようとする。そんな行為が、濡れて帰る覚悟のなさを露呈している気にもなった。  迎えを呼ぶという選択肢もなしだ。濡れて帰る気力ならまだしも、誰かと話す気力の方が皆無だからだ。今は全然、気分ではない。  考えてみれば、今の僕はないない尽くしだった。  そうして降る雨粒の音を数えるうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。それはもう、気付いたら時間が経っていたという感覚であって、まったくうたた寝をしてしまったというつもりはなかったのだけれど、再び目を開いたそのときには、景色は既に一変していた。
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