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「おい! 直香(なおか)、大丈夫か!? どこか痛むところはないか? 怪我してないか!?」
目の前の男性が慌てふためいて私に話しかけてくる。何をそんなに慌てているんだ、こいつは。なぜそんなに顔を近づけて心配そうに覗き込んでくるんだ。周囲の人間も私のことを心配そうに見つめてくる。何人かはちらちらと私のパンツを見ているが。
「ちょっと、脳天が痛いです……。あと首を捻ったかも。あたた……」
私は痛みをこらえながら、心の中ではさっさと助けろよと毒づいていた。なんとか自力で滑稽な姿から起き上がろうと試みる。
その様子を見て、目の前の男は私が上半身を起こすのを助けてくれた。
「おい、大丈夫か? 頭を打ったんなら急に動かないほうがいいぞ」
私の背中に手を回して起き上がるのを手伝ってくれる。
背中に手を回され、長いまつげにつぶらな瞳を持つその男性の顔が私に近づき、不覚にもどきっとしてしまった。
「い、いえ、大丈夫ですよ。ちょっと頭が痛むだけで……。助けていただき、ありがとうございます。大丈夫です、立ち上がれます。お手を煩わせてすいません」
誰だかわからないが、起き上がるのを助けてくれたのだ。礼は丁寧に言っておくべきだろう。顔は好みだが、見知らぬ男性に一目惚れするほど私は馬鹿じゃない。馬鹿じゃないとは思う。思うが、背中にあてられている彼の手の感触を変に意識してしまう。
立ち上がれるとは言ったが、私は頭が痛くて階段下の絨毯にぺたりと座り込んでいる。
「直香、何だそのバカ丁寧な口調は。ほんとに大丈夫なのか? どこか打ちどころが悪かったんじゃないのか?」
男性も目線を合わせるようにしゃがみ込み、心配そうに私の顔を覗き込む。
「本当に大丈夫です。ありがとうございました」
大丈夫と言ったが、私の頭の中は真っ白だ。いったい何をしてこうなったのか、これから何をしようとしていたのか、まったく記憶がない。
「おいおい、なんか変だぞ。明日は本命の東大受験なんだから、もっと気をつけてくれないと」
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