受験生なのに、階段から落ちました

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「対策……ですか? 何でしょうか?」 「おい、本当に忘れているのか。さっき約束したばかりじゃないか……」  何のことでしょう? まったくわかりません。第一あなたは誰なんでしょうね? 私の名前を知っているようですが。  そこへ別の女性が廊下の角から現れ、目の前の男性に声をかけた。 「滝崎先生、先生のところに質問をしに来た生徒がいますよ。数学の問題を見て欲しいんですって」  目の前の男は滝崎というらしい。  声をかけてきたのは髪の長い綺麗な大人の女性だ。滝崎の同僚の塾講師だろうか? メガネをくいっと持ち上げて、座り込んでいる私になぜだか対抗心を燃やす視線を送ってくる。私が目を合わせるとすぐにその視線は外された。 「わかった、すぐいく。直香、本当に明日は頑張ってくれよな。約束は守るからさ」  男が声をかけたのは私のはずなのに、そのメガネの女が口を挟む。 「約束? 約束ってなんですか? 生徒と私的な約束をされては困りますよ」 「い、いや、たいしたことじゃないんだよ。ジュースおごるとかそんなもん」 「いえ、たとえジュース一本でもいけません。不公平になります」 「わかった、わかった。えっと待ってるのは誰だっけ?」 「特進クラスの平井君です」  このあと、滝崎先生とやらは私に本当に大丈夫かとか、なんかあったら絶対医者へ行くんだぞとかまるで保護者のようにうるさく言ってきたので、はいはい大丈夫です、まったく問題ありませんと返しておいた。本当は少し頭が痛かったのだが。  そうして滝崎という男とメガネ女は私の前から立ち去った。二人が去ると、野次馬もちりじりになっていった  廊下にへたり込んだまま残された私はスカートの埃をはらいながら立ち上がり、明日は試験か面倒だな、なんて考えていた。
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