4人が本棚に入れています
本棚に追加
かずみの耳には、ヤスノリが田舎で婚約を解消したという情報は、聞こえてこない。
いちいち『元』恋人の耳に入れなければならない、話しではないのかもしれないが、
それでも、
「来てくれたんだ」
かずみはもう一度言った。
ヤスノリは、うん、とうなずく。
「ボクが頼りにならない男だってことは、ボク自身がよくわかってる。
だけど、かずみがこんなに苦しんでるのに、側にいられないことの方が、ボクにはもっと苦しいんだ」
優しすぎるほど、優しい男。
まるでひつじのようだ。
ふわりと温かくて、まつ毛が長い。
いつだって、優しげにこちらを見つめているだけ。
眠る時に数を数えるぐらいしか役に立たない男。
だけど、そんな優しいだけの男は、時として、周りの人間を不幸にする。
最初のコメントを投稿しよう!