1.金色の雨が告げた未来

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「御当主。  どちらへ?」 「久松、少し休んでろ。  この辺りを飛翔と散歩してくる。  父の墓参りもしたい」 そう言うと、 久松は静かに一礼して、 再び、車を磨き始めた。 高台にある総本家から下に続く アスファルトの道を ゆっくりと歩きながら、 両サイドに咲く、草花を見る。 「強いな……」 思わず呟いた その言葉に、 飛翔はただ静かに相槌をうった。 「飛翔……九年だね……」 「あぁ、九年だ。  あの可愛げのないガキが  多少、可愛げが出て来た時間だ」 そう言って、毒づきながらも その表情は穏やかで…… ふと立ち止まった目の前の自販機で、 ササっと缶コーヒーを購入しては 俺の方に投げ寄越した。 そう……この缶コーヒーの一本すら、 飛翔と生活しなければ、 一生知ることすらなかったかも知れない。 そう思えてしまうほどに、 俺の視野は極端に狭かった。 「病院は?」 「あぁ、九年も経てば  それなりに戦力には慣れてるだろ」 「なぁ、九年前の約束。  まだ有効?」 九年前。 失われるはずだった俺の命が、 黄金の雨に抱かれて一命を取り留めた6歳のあの日。 意識を取り戻した病院で飛翔は俺に告げた。 『なぁ、学校……。  こいつらと出会った母校行かないか?』 何気なく紡がれた その言葉が優しくて、 俺は……一度は頷いた。 だけど、飛翔が親友の氷室先生や金城さんたちと過ごした 学校は中高一貫教育。 当時、まだ初等部だった俺には どうすることも出来ず神前悧羅学院悧羅校に通い続けた。 徳力の未来をこの背に感じる あの頃の俺には、 どうしてもあの場所で将来の為の 布石となる、大きな人脈のパイプラインを 育んでおきたかった。
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