16.御霊分の夜

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俺と同じような場所に刻まれた 雷龍の刻印に、触れながら。 『神威……お前が居なければ……。  お前さえ、生まれなければ  深凪はこんな風にはならなかった』 直後、吐き出された父さんの言葉。 父は、見えるはずのない俺の姿を 確実に捉えて言の刃を突きたててくる。 その言葉は、 俺の周囲を取り巻く闇を より深く濃いいものへとしていった。 次に流れ着いた闇の中。 そこに姿を見せるのは、 あの時と同じように、 白装束に身を包んだ男。 父さん? 母さんに続いて、 父さんのその終焉(とき)を 見せようと言うのか? その残酷な時間を見せ続ける それに対して、 責めるような心が一つ。 その先を 見届けたいと望む欲求。 目を逸らしたいと 感じる欲求。 相容れない俺の心が、 荒波をあげるように 心の中ぶつかっていく。 「父さんっ!!」 溜まらず声をかけて駆け寄ったその先、 振り返ったのは、父さんではなく……飛翔だった。 「飛翔。  何してんだ」 叫ぶ俺に、飛翔は『構うなっ!!』と 一言、突き放すように告げた。 踏みとどまった足元、 そこに広がるのは闇の沼。 何処までも濃いく、 弱い心を飲み込んでいく そんな沼が、 静かに闇に紛れて潜んでいた。  飛翔は、その闇の沼の上を ただ一人歩き続ける。 その姿が、 母さんが海に消えていく姿と 俺の中で重なっていった。
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