16.御霊分の夜

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『飛翔っ!!』 もう誰も失いたくない。 その望みだけが、 アイツの名前を叫ばせる。 その声に呼応するかのように、 手に刻まれた龍の刻印に、 内部に流れる血で描かれるように 龍の刻印が紅く浮き上がった。 そのまま放たれる光。 光は暗闇を切り裂いて、 天を突きぬけ、 飛翔が解き放った龍と絡み合うように 睦みあっていく。 その龍が駆け上がった麓。 まだ幼すぎる俺は、 目に涙を沢山浮かばせながら 村人たちや、真っ暗な海と 必死に戦っていた。 幼い俺が抱くのは…… 父さん、母さん…… そして飛翔……。 俺はゆっくりと、 その小さな光に手を伸ばす。 幼い俺は、安堵したように 俺の中へと引き寄せられていった。 『父さん、母さん……』 金色の光が地上に ゆったりと降り注ぐ中 二人は、俺に笑顔を見せて ゆっくりと天へと還っていく。 「飛翔……」 近づいた俺は、 呼びなれた名前を紡ぐ。 「宵玻」 紡がれた言葉は、 飛翔なのに、何処か懐かしい声。 そう…天(そら)に還った 父さんの声によく似ていた。 ゆっくりと立ち上がった飛翔は、 何かに駆られるように、 流れるような文字を指で描き上げていく。 それと同時に、 眩しい光と共に姿を見せたのは、 甲冑を身に纏った、緑髪の青年。 「宵玻、今日までご苦労であった。  汝の呪を解き放つ」 告げられた言葉に頷くと、 龍はそのまま、姿を銀髪へと変えた。 「神威、雷龍との契約の時だ。  宵玻の呪(しゅ)より解放した今、  新たな長として、その名の元に雷龍を臣へと誘う。  名を紡げ」 その声と共に、心に浮き上がる 一つの名を叫ぶ。 「汝が名は貴咲(きしょう)。    新たなる玉を抱きし神威が告げる。  この血を糧としてこの身に降り立ち、  この世界を導け。  雷光の迸るままに」 浮かぶままに、 解き放たれた言霊に添うように、 雷龍は俺の体を目がけて まっさかさまに降臨していく。 刻印が 放ち続ける眩しすぎる光。  すり抜けるように、 俺の体をかき乱すように 降り立った雷龍。 神体をその身におろす。
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