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その日は、朝から雨が降っていた。
強い雨音でアラーム変わりに目を覚ますと、ベッドサイドにある出窓のカーテンを開けた。カーテンを開けただけで、雨音は一層強さを増す。
土砂降りだった。
本当だったら窓を開けた瞬間、隣の家の屋根が間近に迫ってくるはずなのに。それが今日に限って、薄くなって見える。数メートルの視界が悪くなるほどの大雨。
あー。なんて日だ…。
美晴は、咄嗟にそう思った。
今日は朝から掛ける予定だったのだ。
約束ではない。気ままな1人旅。
三十路にもなった女性が1人旅だなんて…という人もいるかもしれないが、そんなことで構わないで欲しい、というのが美晴の性格である。
無論、1人なのだから今日の予定は変えればいい。何もこんな大雨の日にわざわざ出掛けなくても、とも思うのだが。せっかく“行く”と決めた決意を損ねるのは、美晴にはどうにも躊躇われた。
この機を逃したら、二度と同じ気持ちにはならないんじゃないか…。
美晴には、自分の経験上、そう思えたからだ。
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