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電話を切った文也くんは煙草に手を伸ばして一本取り出して火を着け深く吸いながら紫煙を吐き出した。
「まぁ、母さんには言われるとは思ってたけどね…」
「ウチの親は結婚するなら連れて来るように言ってたけど、同棲については好きにしなさいって言ってたよ?」
「ウチも同棲に反対してる訳じゃないみたいだけど、俺が同棲するのは初めてだから結婚意識してるって思ったんだろうね」
「実家に連れて来るようになんて言われるとは思ってなかったよ私」
「尚の話だと父さんじゃなくて母さんが言ってるんだよ。そんな気にしないで、気楽でいて大丈夫だよ」
「私、彼氏の親に紹介された事とか無いから緊張しちゃう」
「正直、俺も親に彼女紹介するの初めて…今まで会わせたことないや。彼女紹介しろとか言われたのも初めてだよ」
文也くんは小刻みに煙草を弾いて灰皿に灰を落とした。
「お母さん、いきなり私みたいのが行って怒ったりしないかな?」
「母さんはそんな人じゃないから安心して、尚のヤツ、口軽いから母さんには色々と話してると思うし…多分、基本情報くらいは伝わってると思うんだ」
「歳上だとか…病気の事とか?」
私は表情を曇らせた。
「歳上ってのは話してると思うけど、病気の事は尚は専門外だから話してないと思うんだ。母さんには俺から説明するから、イツキさんは一緒に実家に来てくれるだけで良いよ、大丈夫、心配しないで」
腕時計で時間を見て文也くんは伝票を手にした。
「送るよ」
「うん」
何か考えているのか、すっかり口数が少なくなった文也くんは私をマンションに送って帰っていった。
部屋に帰って来た私は病院から処方されている夕食後の薬を飲んで、シャワーを浴びて部屋着に着替え、髪を乾かして注射を打ってベッドに横になっても、なかなか眠れなかった。
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