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軒先
突然の雨に、近くの民家の軒下に駆け込んだ。
金城にコンビニでもあれば迷わずそこに入るのだが、周辺は生憎と住宅地だ。雨足も強いから移動は避けたい。
雲の流れ具合から察するに、強いが一時的な雨だろうから、止むか小降りになるまでここにいよう。
しかし、この家があってくれてよかった。
周りの家はたいてい壁に囲まれていて、軒先一つ借りられない造りばかりだ。
その点ここは、壁も垣根もない家で、近所の四角い家と違い、昔ながらの古風な家だから、ありがたく軒を借りられる。
ああ本当に、この家があってよかった。
そんなことを、通り雨が止むまで思っていた。
その数日後、たまたま用事でその近所に赴いたのだが、いくら探しても前に雨宿りをさせてもらった家が見つからない。
場所は間違いなく子の周辺だ。見覚えのある家も何軒かある。でもあの家だけがない。
ほんの数日しか経っていないのだ。リフォームなどで外観が変わったとしても、それならそれで新しさが際立つから、家の位置くらいは判るだろう。
暫く探してみたが、結局あの家は見つからなかった。
そこからまた数日。
今日も突然の雨に降られ、どこか雨宿りのできる場所はと探していると、一軒の民家が目に止まった。
人が充分雨を凌げそうな軒先。でも俺はその下に駆け込むことはなかった。
そこにあったのは、前に軒先を借りた…晴れた日に探しても決して見つからなかったあの民家だったのだ。
ほんの少し雨宿りをするだけ。その間、何か奇妙なことがあった訳じゃない。でも、自分的にもう無理だった。
あれ以来、あの付近には近づいていないけれど、今でもあの家は、雨の日になると出現するのだろうか。そこで雨宿りをした人は、雨が止むまで、いつも無事にいられるのだろうか。そんなことを、急な雨に降られるたびに考える。
軒先…完
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