《二》

5/5
70人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
「僕に君の身体を……全てを晒してくれると言うのか?」 「晒しますよ、先生がお望みなら」 「花岡くん……」 「だけど一つだけ、お聞きしたい」 「何だ」 「博愛、ですか?」 「博愛? そんな薄っぺらい感情なもんか!」 「じゃあ何です? これは」 「これは……」 何と説明すればいいか、言葉に詰まった。 僕の中の語彙を以てしても、表せない感覚だ。 「ただ抱きたいだけですか?」 「違う!」 「では、先生の文学の肥やしにでも?」 「文学? そんな立派なものじゃない!」 「じゃあ何の意味があるんですか? 僕を抱いて、何になると言うんですか?」 静寂が訪れ、自分の中に残った感情は、ただ一つ…… 「純愛……」 「……純愛?」 「そうだ、これは純愛だ。可笑しいか? 僕はただ君を純粋に愛している。 男同士であろうが、何だろうが関係ない。 ただ君を愛しているから抱きたい、深く愛し合いたい。 こんな思想は可笑しいか? 間違っているか?」 僕がそう問うと、暫しの沈黙の後、彼は僕を見詰め口を開いた。 「可笑しくないですよ?」 そして口角を上げ、彼は僕の目前で菩薩の様に微笑んだのだ。 「可笑しくなんかない、いつも言ってるでしょう? 僕は貴方が好きなんです。 貴方の思想、話す言葉全て。 ただ貴方のような有能で有望な方が、僕の様な一介の編集者など相手にするわけがないと思っていた……」 「……っ、君は何を……今何と言った?」 一瞬、自分の耳を疑った。 彼が僕を…… 驚きと歓喜が入り乱れ、息を飲む。 すると彼の腕がぐっと力強く僕の首を引き寄せ 「貴方をずっと、お慕い申しておりました」と、 囁くと同時、今度は彼の方から唇を塞いできた。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!