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「えっと……?」
「桃。それから柿ですよね? 毎年来てくれてるでしょ」
「ええ、まあ……。あの、あなたは……?」
「姉よ」
「……誰の?」
「あなた」
「……は?」
「この年になってやっと会えたわね。母が会いたがっているの」
「え?」
状況がわからなかった。
頭の片隅に居座っていた女性が、少し老けて登場したかと思えば、俺の姉だと自称する。
そして何より、行方知らずだった母の居場所を知っていると言ったことに、動揺を隠せなかった。
祖母に聞いても言葉を濁され、話題を変えられた母に関する話。
父親は死んだと教えてくれるのに、母親に関しては何も教えてくれなかった。
だから、子供の頃の俺は、母親に会いたいと願った。
『お母さんは、いつ帰ってくるの?』
『婆ちゃんはお母さんじゃない!』
浴びせた言葉を思い返すと、たった一人の家族であった祖母に辛い思いをさせていたと思うと胸が痛む。
しかし、大人になるにつれて考えたのは、
父を亡くした事で、母親が生まれた俺を祖母に預けて他の男についていったという仮説。
〝俺の誕生日は、父親の命日〟
祖母からそう聞いた中学生の時から、母親に会いたいとは微塵も思わなくなった。
父親を忘れるために自分を捨てた母親に、会いたいとは思えなかった。
我が子よりも自分の幸せを優先するのなら、会ったところで辛くなるだけだから。
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