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「俺もカッチーンって来ましたね。俺はどう言われてもいいけど、颯介を侮辱するのは許せない。バカで幼稚はそちらさんではないですかね」
「バカは言ってないだろ!それに私は真田なんて一ミリも好きじゃない!」
言いながら、勢い余って相手に近付き、その腕をギュッと掴む。
相手もそれにムッとなって、同じように反対側の腕をつかんで来た。
お互いふらついて、ツツジの木の植え込みに足を踏み入れてしまう。
ミシミシと枝が悲鳴をあげた。
「俺だってあの子なんて好きじゃないから……!そっちだって颯介が好きなんでしょ!?」
「好きじゃない!むしろ嫌いだ……!!」
ツツジの木がガサガサと揺れて悲鳴を上げているが、二人は掴み合いでそれ所ではない。
冷静になってみると、二人は実の所出会ってまだ10分も経っていないのだが、何故だかこんな事態に陥っている。
「じゃあなんで泣いてたんです!?それは颯介が好きだからじゃないの!?」
「そちらさんも泣いてたじゃないか!本当は和香子ちゃんが好きなんだろ!?」
枝がバキバキと音をたてる。
「俺が……!」
「私が……!」
「好きなのは…!!」
「好きなのは……!!」
「颯介だ!」
「和香子ちゃんだー!!」
同時に叫んだ瞬間。
枝を踏んだ二人の足がズリッと間抜けに滑った。
「わっ、わわ……!!」
無理な体勢が祟ったのか、そのままザンッ、とツツジの木に体が埋まってしまう。
「いって……!」
わさわさと覆い被さる葉っぱをかき分け、体に突き刺さる枝をなんとか押し退けて起き上がる。
脇には一悶着あった少年が転がっていて、腹立たしさに起き上がるのを妨害するため足を掴んだ。
「わっ、ちょっとなにするんですか……!」
「あなたね、ふざけたことを言うのも大概に…」
「ふざけてるのはそっちでしょ……!」
「ふざけてなんかないね!こっちは本気なんだ!私がどれだけ男に負けないように苦労してイケメン磨きに情熱をかけたと思ってるんだ……!!」
「俺だって、どんなに冷たくあしらわれてもめげずに傍にいたんだ!仲良くなるのにどれだけ苦労したか……!」
あーだこーだと掴み合いになる。
枝がミシミシと軋み、葉っぱがバサバサと舞い上がる中、二人は押し問答を続けた。
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