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いえ、わからないといったのは間違いです。
だって心の中ではもう、涙が溢れたその答えを出すことができていたのですから。
私は、先輩の進路先を聞いていません。
聞いてもはぐらかされるだけで、結局去年のあの日になっても、先輩は決して教えてくれませんでした。
どうして彼は、教えてくれなかったのでしょうか。
意地悪にも程があります。
「……あの約束、守ってくれたんですね」
私の身体が、徐々に色彩を帯びていき、太陽のように眩しく、光を放ち始めます。
「ありがとうございます、先輩。……おかげで、やっと私も、進路が決まりました」
また、一際強い風が吹き、桜吹雪が私を包み込むと同時に、私は目を閉じました。
もしも、こんな生き方ができるならば、たとえ短い命でも構わないと、今なら思えます。
桜吹雪の中、あのたった一枚の花びらが私の頭を軽く撫でたような気がしたかと思うと、すぐに意識が朦朧としていき、ふわふわとした感覚に包まれて、私の視界は静かにフェードアウトしていきます。
最後に、ほんのわずかに、気のせいかと思うくらい、うっすらと。
私の中から、バニラのようにふんわりと甘い匂いがしたような、そんな気がしました。
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