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早歩きで近づき、その木の前で立ち止まります。
若々しい幹。それは周りの木よりも一際小さく、枝は冬の寒気にやられてしまったのか、今にも折れてしまいそうな程弱々しいもので、花を咲かせることには失敗してしまったようでした。
「……ふふっ」
しかし、よく見てみると、その桜には一枚だけ花びらを咲かせており、風に揺られている姿が、どこか私に手を振っているように見えました。
たった一枚の薄いピンク色の花びらが、他のどんな花びらよりも深く刻み込まれ、私は知らずの内に、届かない距離にあるその花びらへと、右手を伸ばしていました。
「……たった一年で、こんなに無理するからです」
原因はわかりません。
ですが、私は何故か泣いていました。
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