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「....っ先生、斎藤先生。」
ビクンっと私の肩が揺れた。
さっきまで火照っていた頬から熱が抜ける。
隠す必要の無くなった冷たい頬からゆっくりと手を離した。
そっと顔をあげると、
先生はもう私の方など向いていなかった。
清潔そうにみえない白衣が恨めしい。
ボサボサの髪に無精髭、伸びきった前髪。生徒達からは嘗められて「サイトー」なんて呼ばれている。
そんな斎藤先生を呼びに来たのは、古手川さんだった。
昼休みの彼女とは打って変わって、不安そうな瞳をしていた。
「なに?どーしたの?また怪我?」
古手川さんの肩に先生がそっと手を置いた。
そんなことを考えてはいけないとわかっているのに、心の中がモヤっとした。
古手川さんがチラリと私の方をみた。またあの射抜くような鋭い瞳だ。
肩に置かれた手を振り払って、
「先生、きて。」
とだけ言うとさっさと歩いて行ってしまった。
「高梨、今日は早めに帰りな。鍵はやっとくから。」
あ、よそ行きの先生だ。
また、モヤモヤが積もった。
こんな自分が嫌だ。顔を伏せたまま頷いた。
その後は気分がのらないまま、自分の絵の前でずっと固まっていた。
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