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千代さん
僕がカフェうつつに通いだしてから、もう2週間になる。
初めこそ誰もいなかったけど、次から僕が店に入ると必ず先客がいて、カウンター横のソファを陣どっている。
そしていつもテーブルには、本を山のように積み上げて、その中の一冊を熱心に読んでいる。
この、少し太った中年女性は千代さんといって、このカフェの一番最初のお客さんらしい。
「ねえ、ニナちゃん、鬱になると太るか痩せるかどっちかなんだって。わたしは確実に太る方だったんだわ~。ニナちゃんは痩せたでしょ。」
「うん、痩せたねえ。8キロくらい。でも5キロは戻ったよ。」
「セシルっちは?やっぱ痩せのほう?」
「そうですね~、でももともと痩せてたし、2キロ減くらいですよ。」
「ふう~ん。」
千代さんは納得いかない風に、唇をとがらせた。
「世知くん、千代さんにね、昔の写真見せてもらって!すっごく綺麗なんだから。」
「えー、マジマジ?見たい見たい!」
「そうかそうか、見せてあげよう。」
そう言って、千代さんはカバンから黄色い手帳を取り出し、挟んであった一枚の写真を取り出した。
それはモノクロの写真だった。ナース服を着た美女が手を後ろで組んで壁にもたれかかっている。
「えーー!だれこれ?ほんとに千代さん?めっちゃ綺麗じゃないですか!」
写真の中の美女は、少しはにかんだ表情で微笑んでいる。
僕は千代さんと何度も見比べた。
ああ、今は亡き美女…
「失礼ね!…って、まあほんとにそうよね~。何回かダイエットはしてるんだけどね~、わたし燃え尽き症候群だから、無理!」
わはは、と笑い飛ばす千代さん。
「これ、何歳ぐらいですか?そして今何歳なんですか?」
「写真23、今52」
「お、おー、そっかあ、30年ほど経ってるんだー。」
「この頃はナースとして、キラキラと仕事してたなー。その後結婚してからは本当に大変だった。」
千代さんは、昔の話をしてくれた。
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