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 その女性は、遠目からも美人とわかる風貌だった。漆黒の肩までの髪。黒目がちの瞳。ほっそりと伸びた白い腕。人を惹きつけて止まないオーラを纏っていた。 「こんにちは。中丸先生ですね?」 「先生だなんて、よしてくださいよ。えーと、ウエさんとお呼びしてよかったですか?」 「すみません、上と書いて、『シャン』と読みます。」 「ああ、これは失礼しました。」 シャン。珍しい読み方だ。外国人だろうか。 私は、彼女の小さな軽自動車の助手席に乗り込んだ。 密室になると、彼女の髪の良い匂いが、車内に充満した。 彼女はこんな田舎にまですみませんと言い、私に微笑んだ。 私は頭を振り、村に落ちた隕石に興味を持ったことを告げた。 彼女に興味を持ったのは、もちろん内緒だ。 「うちの村は、里と離れていて、陸の孤島みたいなものなんですよ。だから、村人は、ほとんどが、姓が「上(シャン)なんです。」 はにかみながらそんな話をし、車は山の中へ入っていく。 だんだんと道が細く、心細いにも関わらず、慣れた様子で彼女は車を走らせた。 随分と山の中へ分け入って行くと、わずかな谷あいに集落が開けていた。 民家より、畑のほうが多いような気さえする。 その集落を見て、私は、すぐに違和感を覚えた。 畑というものは、作物が育っているのではないのか。 見た目、畑というのはわかるのだが、どの畑にも作物が実っていない。 一つくらいはどこかに作物があるだろうと思って見渡しても、耕した土があるだけで見渡す限り何も無い。 今年は、作物が不作だったのか。それとも、休耕田ならぬ、休耕畑?  そんなことを思いながら、窓の外を見ていると、大きな古民家の前で車が止まった。 「ここが私の家です。宿泊施設が無いので、古くてむさくるしいところですが、こちらでご宿泊ください。」 彼女が家の中へ入るように促した。 「お世話になります。」 私が挨拶をすると、中から老夫婦が相好を崩して出迎えてくれた。 「こんな田舎によくおいでくださいました。さあ、あがってあがって。」 両親とも、彼女によく似た、黒目がちで、日本人離れした顔立ちだった。 やはり外国人なのかもしれない。
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