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やっとのことでその言葉をぶつけるが、言われた当人はしれっとしている。それがやけに腹立たしい。
「何とか、言ったらどう?」
「止まりましたね」
「はぁ?」
「涙」
「!」
言われて、目尻に手をやる。確かに、さっきまで湿っていた頬は乾いているが、そういう問題ではない。
返す言葉を探しあぐねていると、彼はそんな自分を放置したまま立ち上がった。
「それじゃあ、そろそろ行きますね。あと、キスしたことは謝りませんので」
「・・・貴方ねぇ」
恨みがましい目線を投げつけるが、彼はそれを含みのある笑顔でかわし、歩き出す。
数歩離れたところで、彼は再びこちらを振り返った。
「?」
「それから、やっぱり煙草は苦いので、止めた方がいいと思いますよ」
「!さっさと戻りなさいっ!」
必死の想いでその言葉を吐く。が、彼は変わらず苦笑いを浮かべて扉の向こうへと消えた。
***
「何なの、一体・・・」
今更だが、赤くなった顔を両の手のひらに埋めて、ぽつりと漏らす。
-扉の向こうから、返事は返ってこなかった。
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