カフェイン好きな彼

8/8
前へ
/15ページ
次へ
 やっとのことでその言葉をぶつけるが、言われた当人はしれっとしている。それがやけに腹立たしい。 「何とか、言ったらどう?」 「止まりましたね」 「はぁ?」 「涙」 「!」  言われて、目尻に手をやる。確かに、さっきまで湿っていた頬は乾いているが、そういう問題ではない。  返す言葉を探しあぐねていると、彼はそんな自分を放置したまま立ち上がった。 「それじゃあ、そろそろ行きますね。あと、キスしたことは謝りませんので」 「・・・貴方ねぇ」  恨みがましい目線を投げつけるが、彼はそれを含みのある笑顔でかわし、歩き出す。  数歩離れたところで、彼は再びこちらを振り返った。 「?」 「それから、やっぱり煙草は苦いので、止めた方がいいと思いますよ」 「!さっさと戻りなさいっ!」  必死の想いでその言葉を吐く。が、彼は変わらず苦笑いを浮かべて扉の向こうへと消えた。 *** 「何なの、一体・・・」  今更だが、赤くなった顔を両の手のひらに埋めて、ぽつりと漏らす。  -扉の向こうから、返事は返ってこなかった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

185人が本棚に入れています
本棚に追加