上山優子1

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「あれ」 朋美がいなくなっていた。音もなく、痕跡もなく、消えていた。まるで幽霊になったみたいに。透明になったみたいに。 あるのは三面鏡。しかも閉じている。開けた筈の三面鏡が閉まっている。そして朋美がいない。 「あー」 なるほど。怖がらせようとしてるな。さっきまで散々私が怖がらせたから。仕返しってやつだ。 あの子もなかなか根に持つタイプか。 「朋美ー。隠れてるのは分かったから、出てきてー。 ちょっと帰らないといけなくなったからー」 視聴覚室の隅まで聞こえるように声を張る。でも返事がこない。私の声が響くだけだ。 朋美は出てこない。 物音一つしない。 「朋美ー」 キィィっと。私の言葉に対して返事をするように、三面鏡が音を上げた。 思わずそれにビクついた。私とした事が、ビックリしてしまった。半歩下がってしまった。 三面鏡の両開きの鏡がちゃんと閉まり切らず、途中で開いている。中途半端に閉じているから、開きかけている。 それが揺れて音が出たんだ。
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