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「何階なの?」階段の途中で足を止め丈史は言った。
「三階だよ。一番見晴らしがいいところ」
古い建物だからか、それとも温泉地特有の水周りの臭いなのか、少し変わった臭いがする。かび臭いような饐えたような。
その臭いは部屋に入ると一層顕著になる。
温泉地であるが故に水道水にも鉱物が含まれ、その臭いが建物に染み附いていると思われた。
丈史は顔をしかめたが、下見をした武雄はその臭いの事は知っていた。実際蛇口の処には、あまり見かけないような白い錆が、固まりになって付着している。
引っ越し慣れていると、荷物はそんなに多くない。
武雄は荷物がすべてあることを確認して、引越し屋の若者が差し出した書類にサインした。若者達は帰っていった。
「さあ。これが今日から半年間住む部屋だぞ」丈史に笑って見せた。
畳の六畳間と板張りの四畳半の台所。
廊下に面した台所の窓は、木の格子のすりガラス。
畳の部屋にはふすまの押入れと、その上に天袋。
窓は木の格子のガラス窓で、見下ろすと裏庭の桜が見えた。
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