4人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後の事。
丈史を迎えに行くと、保母から言われた。他の保母が丈史の相手をして、丈史のいない場所でその会話はなされた。
「丈史ちゃんのお友達で、近所に七歳か八歳くらいの女の子はいませんか? もしかしたらもう少し上かも知れませんが……」
「いや……。いませんけど。何故です?」
「丈史ちゃんも怖がってて、ちゃんとお話ししてくれないんですけど、大人からいじめられてる女の子がいるって……」
思わず眉根を寄せた。
「それって、……まさか、虐待児童?」
保母もいっそう声を低めた。
「と、思うんですけど……。訊いても教えてくれなくて……」
「わかりました。僕から訊いてみましょう」
「お願いします。ただ、丈史ちゃんも怯えてますから慎重に……」
「はい……」
排他的で余所者に冷たい地域性、住民のよそよそしい態度、何かしら陰湿なものを感じていた。女の子の姿を見た事はないが、ありえない事ではない。もしも虐待児童なら閉じ込められているのかも知れない。
いや。
そもそも、丈史とその子の接点は何処にあった?
保育園にいる以外の殆どの時間は、俺と過ごしている――。
ハンドルを握りながら、武雄はどう切り出したものか考えあぐねていた。
口を開いたのは丈史のほうだった。信号待ちの交差点。唐突に訊かれた。
「ねえ、パパ……。パパは幽霊っていると思う?」
「え?」
武雄は思わず顔を助手席に向けた。
丈史も、つぶらな瞳を真っ直ぐ父親に向けていた。
これは、どういう事か? 先日は死後の事を訊いてきて、今日は幽霊?
何がこの子の心を捉えている――?
「そんなのは……、いないよ。こないだ話したじゃないか。みんな天国に行くんだよ」
丈史は首をふった。大粒の涙がぽろぽろと零れた。
「いるよ。お願い。あの子は行けないの。お顔に針が沢山刺さってた。抜いてあげて」
最初のコメントを投稿しよう!