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「よお、マルセル」
日の曜日の早朝。マルセルは突然の来客に笑顔で答えた。
「ゼフェルおはよう。珍しいね、こんな時間に来るなんて」
また、徹夜でもしたの?
と問えば、うるせーよ、と返事が返ってくる。
突然の来客―ゼフェルは、マルセルのいる部屋の窓の側に、乗っているエアバイクを停止させその上に、座り話しかけた。
「花、生けてんのか?」
「うん。綺麗でしょう?みんな綺麗に咲いてくれて、僕嬉しいんだ」
テーブルの上には、大輪の白いバラがマルセルの手で花瓶に生けられている所だった。
暫しの沈黙の後、先に口を開いたのはゼフェル。
「…マルセル。実は頼みあんだけど」
ばつが悪そうに言うゼフェルにマルセルは、
「どうしたの?ゼフェルが僕にお願いなんて珍しいね」
驚いたマルセルに何時もなら怒るはずのゼフェルは、また、ばつの悪そうに口を開いた。
「あのよー、その花さ…一本包んでくれねぇ?」
「えっ?」
「…んだよ?」
「ゼフェルにしては、珍しいお願いだったから…びっくりして…。わかったよ。ゼフェル、部屋の中入っておいでよ。待ってる間にお茶持ってくるよ」
「別にいらねーからさ。それより、早く包んでくれねぇか?急いでんだ」
「そう…分かったよ。待っててね!」
そう言うと、マルセルは奥の部屋へと走って行った。
「あいつ、鋏持ったまんまじゃ、アブねぇーだろ…」
呟いて、空を仰ぎ見る。聖地の空は今日も、青かった。
暫くして、手に綺麗にラッピングされた白いバラを持って戻ってきた。
「はい。ゼフェル」
ゼフェルはその花を受け取り、まじまじと見つめた後、ツイと花びらを触った。
「わりぃな。サンキュー」
その様子を見ていたマルセルはくすりと笑う。
「気に入って貰えて良かった。でも、どうしたの?ゼフェルがお花なんて、珍しいね?」
「…が好きだったからよ」
「ゼフェル?」
「…っ。なんでもねぇーよ!気にすんなっ…とにかくサンキューな。俺、急ぐから行くわっ」
言うが早いか、エアバイクを起動させ、発進した。
「待って!ゼフェル!」
名を呼ぶマルセルに、振り返らず左手を軽く降ると、スピードをあげた。
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