何時かまたこの場所で

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それからは暫く無言で過ごした。 不意に遠くから、定時を鐘の音が聞こえた。 この音は、ここを発つ時から変わらないようだ。 音が鳴り止むと同時に、ゼフェルは立ち上がる。 後ろを振り向くと、オレンジ色が目にいっぱい入ってくる。優しい優しい色。人工的に作られた夕焼け。 でも、この色がゼフェルは大好きだった。 「また、明日」と親友と別れた家までの帰り道がこの色に染まる。その道を走って帰るのが大好きだった。不意に思い出が頭の中を駆け巡る。 汚れて帰って母親に、怒れたり初めて作ったロボを誉めて、頭を撫でてくれた父親の手の大きさとか。 親友と競争したエアバイクの大会とか。 それから、最後の誕生日ケーキ。沢山のロウソクの灯り。 目がしらがあつくなってきたのを感じて、ゼフェルは乱暴に目を擦った。 もう一度、夕焼けを見て、それから、よしっ!と声を挙げてから、後ろを振り向く。そして、 「これから、エトワールってのが来て忙しくなるんだ。でも、…また、絶対くるからよ。…じゃあな」 そのまま歩き出した時。 ――――ぽん。 背中を押された様な気がすして、ぱっと振り向くが、そこには誰もいるはずもなく。 でも、気のせいではないとゼフェルは思った。 「またなっ!」 満面の笑みで駆け出す。 絶対、また来よう。 そう心に固く誓って。 いつのまにか故郷の空は紺色に変わっていた。
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