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それでも数分、にらみ合いはつづいたのだろう。
やっと玄関からパンプスの音が遠ざかりドアが閉まる頃には、俺の全身はジットリ冷や汗で湿っているほどだった。
「……クソッ!」
搾り出す低い声と何かを殴る音を聞き、不謹慎にもやっと終わったと、安堵した。
「たーくー」
ベッドから呼びかけ
布団を持上げ、おいでおいでと手招く。
「…悪いケド、そんな気分になれねーよ」
「アホか。解ってるよ。ちょっと来いって」
呼びかけに応じたのか、でも拓也はベッドには入らずに床に座って俺に背を向けた。
項垂れてる頭を、後から撫でる。
「よかったじゃん、犯人わかって。もう怖くないなー」
努めて明るく、軽い調子で声を張った。
撫でて手に伝わる温度は熱く、ソレだけ彼がいかにキレていたのか、そして我慢していたのかを直に感じ取る。
「拓也は凄くてエライ。
普通なら怒ってもいいことにも怒らずに我慢して、耐えた。」
あんな風に真希に被害者面させる必要もないくらいに責めていい理由があったのに、だ。
(ほんっと、勿体無いくらいにイイ男だよ。)
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