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「おはようございま~す!」
香ばしいパンの香りの漂う『麦の穂』のドアを開けて、キーは元気よく声かけた。
「おはようキーちゃん。ほら、ここに用意してあるわよ」
「ありがとう、かよさん。う~ん、いつもながら焼きたてのいい匂い!あ、これ御代です」
「はい、確かに。・・ところで、平日のモーニングは当分やらないの?」
「う~ん。あかねさん、フランス語の仕事の都合があるらしくって。当分はお休みすることになりそうなの」
「そう。配達終えて、あかねちゃんのとこでコーヒー飲むのが楽しみだったのに、ちょっとの間さみしいけど仕方ないね」
「そうですね。少しの間だろうから、またモーニング始まったらぜひ来てください」
「もちろんよ。その時は配達ついでにまた寄るわね」
「じゃぁ、またパンが必要なとき連絡して取りに来ます」
「わかったわ。あかねちゃんによろしくね」
「はい」
キーが洋館の前を通り過ぎると、前から背の高い男2人が歩いてきた。
「おっ、キーちゃんおっはよう!今から?」祐二が先に声をかけた。
「おはよう祐二さん、亮さん。ええ、お二人は今お帰りですか?」
「ああ、そろそろライブの本番が近いから、バイト終わって朝まで練習三昧。
もうヘロヘロだよ~」
祐二はおどけるようにわざとフラフラとよろけて見せた。
“カフェ・ド あかね”でモーニングをしなくなって数日が過ぎていた。そのため、出勤がてらキーが注文のパンを購入していくという日々が続いていた。
そのたびに、ギターを背にしたこの二人と会うようになり、祐二はランチを食べに来たりと、親しく言葉を交わすようになっていた。
「大変ですね~」
「いや~、マジで。こいつが狂ったように練習するもんだから、付き合わされて大変なんだ」
祐二は、わざと睨みつけるように亮を見た。
亮はまったく気にしない様子で、無表情のまま「俺先行ってるぞ」というと、キーに軽く会釈して洋館の中へと入って行った。
「亮さん、なんかこのところ元気ないですね」
「・・まぁ、ライブも近いし。それに、作ってる曲が思ったように進まなくて、ちょっと神経質になってるみたいなんだよ。気にしないで」
祐二はキーを安心させるように笑顔で言った。
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