十一

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マダムはフィリップにあいさつ後、あかねに軽く会釈をした。 あかねも軽く挨拶を返し、フィリップの話を次々と訳してマダムに伝えた。 一通りフィリップとの会話を終えると、マダムはあかねに、 「通訳のお仕事もされてるのね。すばらしいわ。フィリップさん、彼女は私のご近所の友人ですのよ」と告げた。 それを知ったフィリップはそれは素晴らしいと、上機嫌になった。 「あかねさん、とてもきれいよ。初めは気がつかなかったわ」 「着慣れないので歩くにも気を使います。マダムこそ、とても素敵です」 「ありがとう。今日は亮さんと祐二さんにエスコートしてもらってるのよ。ふふ」 「まぁ、頼もしいですね。亮さん、祐二さんこんばんは」 「あかねさん、あんまりきれいなんでびっくりしましたよ!なんかドキドキしちゃうなぁ。な、亮?」 「え、ああ」 「ありがとう」 フィリップが「あかね」と呼んだ。あかねは亮たちに一瞥するとフィリップの元へ行った。 フィリップはあかねの肩や腰を抱いてとても親しそうにしていた。あかねもそれを別段気にしているでもなかった。 「俺ちょっと外の空気吸ってくる」と言って、亮は会場を出た。 「おい、亮!まったく」 「祐二さん、気にしなくていいのよ。亮さんはこういう席は苦手なの。さぁ、せっかくお料理があるのに、いただきましょう」 「ええ・・そうですね」 マダムは祐二にわからないようにちらりと亮の出て行った方向を見て、やれやれといった表情を見せた。 亮は会場から外に続くテラスに出た。 そこにはすでに間隔をあけて数人の人たちが、思い思いにシャンパン片手に語らいでいた。 亮はなるべく静かな場所を探そうとテラスを歩くと、ちょうど一人の男が柵に寄りかかり空を眺めていた。その奥は誰もいなかったので、とにかくまずは移動し、柱を背に 「ふ~」と勢いよく口から息を吐きネクタイを緩めた。 腕を組み空を見上げながら、あかねのことを思った。
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