十一

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「ああ、こっちの話。あっ!来た来た。亮さん、ちょっとこっちに来て!こっちこっち!」 キーは亮をつれて柱の影に隠れた。 「え?キーちゃん、な、なに??」 「しーっ!」 キーは亮に静かにするよう片目をつむってお願いした。 訳の分からない状態だが、とにかく亮はキーと一緒に隠れることになった。 すると、柱の反対側の方で男の声がしてきた。 「僕の気持ち、わかってくれるね。日本で君に会えるなんて思ってもみなかった。君がフランスを去った時、僕がどんなに悲しんだか、きっと想像もできないだろう。再びこうして出会えたんだ」 フランス語で男が求愛をしているようだ。なんだ、勝手にやってくれ。フランス語がわからないフリをして、そのまま前を過ぎて帰ろう。と、亮は思い、 「キーちゃん、俺行くよ」と耳元で告げた。キーはものすごいあわてようで、 「待って!もう少しだけ待って!!」と、亮の腕を思い切りつかんで離さなかった。 亮が、そんなキーに少し面喰っていると、続けて女の声がした。 「フィリップ・・。私たち、昔からの友達じゃない。それに、あなたにはレナという奥さんが」 「彼女とは2年前に別れたよ。今は一人だ。学生時代から君のことがずっと好きだったんだ。あかね。僕が真剣に何度告白しても、君はいつも冗談としか受け止めてくれなかった。それくらい、当時の僕は君からしたら頼りない男に見えたのかもしれない。 けれど、こうして君とまた会えた。運命を感じたよ。お願いだ。友人ではなく、男として、僕の気持ちをわかってくれ。愛してるよ、あかね」 フィリップはあかねの腕をつかみ、愛の言葉を繰り返していた。 亮は、すぐにでも飛び出していきたかったが、相変わらずキーに腕をつかまれ「とにかく今は静かに~」と何度もお願いされた。 「フィリップ、気持ちは嬉しいわ。けれど、私、あなたの気持ちを受け止めることはできないの。私、好きな人がいるの」 亮は、驚いて柱の影からあかねを見た。あかねは真剣な表情で続けた。 「彼のことをとても愛しているの」 「そうか。その幸せ者は、どんな奴なんだい?年は?」 「21歳よ」
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