STARS BACK COFFEE

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 俺は元気だ。毎日働いて、家族も増えて、それなりに満たされている。劇団が解散したときは寂しかったし、人生の一部が欠けたような気持ちになって、もう二度と仲間と会えないと思って泣いたりもした。  慣れてみると、匂いに頼らなければかつての仲間を思い出せない。  そういえば、今日は水瓶の誕生日だ。久しぶりに近所のカフェへ行こうと思い、歩きながら思い出していた。  冬とコーヒーの匂いは、水瓶の象徴だ。 「星座には12年に1度最強運が来るんですってよ」  3名いるうちの女子団員のひとり、早乙女が興奮気味で言っていた。彼女は旗揚げのときからで、水瓶と付き合っていた。俺を含め、総勢12人で構成されていた『STARS』は水瓶と彼女が作ったのだ。 「12年か」と言っただけなのに、早乙女は眉を釣り上げて、「蠍田(さそりだ)! 信じてないな?」と見破ってみせた。 「信じてないわけじゃない。ただ、気が遠くなるなって」 「12年なんてすぐさ」  俺の隣でころころと太い腹を揺すったのは、山羊(やぎ)さん。温和で、博愛主義で、演技が下手だった。
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