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まさか会社が水瓶ひとりの好みに合わせたわけではあるまい。だが水瓶のほうはたしかな運命を感じていたようだ。
「いつも思うんだが、休憩が長すぎる」
長々とタバコを吹かしていたくせに、小さな舌打ちと共に水瓶は重い尻を、すすけた木箱から持ち上げた。なんらかの演目をやったときの、装置の残りである。お役御免になったあとも解体されず、水瓶の尻を守り続けている。
「本気でやろうぜ」
これが水瓶の口癖だった。
「部活じゃないんだからとか、趣味みたいなもんだからとか、そういうの聞きたくない。お金をとる以上は真剣にやろう。ちゃんと役になりきろう。俺たち、大スターだ。そういうつもりでな」
大スター。昭和臭い演説に、ピンと来るものが何人いただろう。
水瓶の決意もアテにならないもので、それからすぐ『STARS』と『スターズバックコーヒー』は廃止になった。スターズバックコーヒーは不味いから、STARSはただでさえやりくりが困難だったところへ、水瓶のプロ意識のようなものについていけない人間が現れたからだ。
ひとつ、ふたつと、星々は消滅していった。
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