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ひゅっ、と背後から吹き付けた風に、思わず足が止まる。転がされたゴミが、かかとにあたった。屈んで、拾い上げたごく軽いそのゴミは、タバコの箱だった。
驚いたことに、未開封である。それに、
「嘘だろう?」
スターズバックコーヒー。12年前に廃止になった銘柄だ。懐かしい、一時期毎日見ていたデザイン。12個の星に取り囲まれた、中心にコーヒーカップのイラストが描いてある。
周りに誰もおらず、物を落とした素振りをする者も現れなかったので、俺は迷いなくセロファンを剥がした。火もつけていないのに、ふわっと香る、独特の匂い。
「水瓶……」
「蠍田?」
俺の真横に車が止まっていた。窓が開いて、運転手がひょっこり顔を出す。俺は思わずアッと声に出した。
髪が随分薄くなって、ますます膨らんだ山羊さんが、不思議そうに俺を見ていた。本当に、まるっと飛び越えて12年振りだ。
色白の二重顎を震わせて、山羊さんも信じられないという風に、驚いてみせた。
「久しぶりだなぁ」
「わわわ。マジで、お久しぶりです」
「乗るかい? 僕これからガソリン入れに行くんだけど」
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