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電車は平和島で一度止まり、また動き出した。
「野崎だ」
電車が動き出すのと一緒に発した声を、聞き逃しそうになった。
「本名?」
「疑いたいなら、疑えばいい」
長い足を組み、腕まで組んでふんぞり返る男―――野崎をしばらく眺めて、やっと一息つけた気がした。
「嘘でも本当でもいいです。信じます」
「おいおい、あまり他人を信用しすぎんなよ」
片眉を上げて呆れ顔を作りながらも、彼の瞳はどこか面白いものを見つけた子どものように輝いて見えた。
「よく考えてみれば、駅ではやっぱり助けてくれたんだと思うし。とりあえず今はあなたを信じます」
「領収書チラつかせて脅してんだぞ?」
「それでも……」
お金もないし、土地勘もない。旅行の経験もない私の電車旅。それをどういう意図があってか助けてくれた野崎という男。
「マリンパークまでの関係ですから!」
「ちゃんと彼氏が"彼女が御迷惑をおかけしました、全額お返しいたします"って頭下げてくれるといいな」
……やっぱりムカつく。
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