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ゆっくりと動き出した電車に居座り続けた私。それに付き合って長い足を組む謎の男、野崎。
「……ここで"じゃあ、羽田に行きます"って言ってたら、この場で全額返済を強いてたぞ」
「妙な口真似しないでくださいよ、似てないです」
ぷいと窓へ向くと、眺めは海だった。
まだ肌寒い春の海は、波が高く少し濁っている。それでも広く開けた景色を眺めていると、ちょっとだけ心が落ち着いていく気がした。
一人だったらこの景色は見れなかった。
お金がない事も理由だけど、あのままだったら品川駅からとんぼ返りに下りの電車に乗っていただろう。
野崎がいなければ、電話かメールで彼との関係を決めていたかもしれない。
「バカにはしてないからな」
ぽつりとこぼれてきた言葉に、太平洋の眺めから目を離し、野崎へ振り返った。
「……理由はどうあれ、女がたった一人で電車に乗って旅行しようなんて意気込みに、呆れもするが感心もしたんだ」
いまいちバカにされてる気がするのは、野崎のこれまでのいちいちの言動のせいだろう。
「だから連れてってやる。納得のいく結果を出せ、オマヌケさん」
……呼び名が決定した。
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