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野崎が私の手から地図を奪い取った。
「……ん、次。降りるぞ」
目的地の油壺マリンパークまでは、まだ先があるのに?
「乗り換えですか?」
思い当たるのはそれくらいしかないが、野崎は「いいから」とそれしか言わない。
次に電車が停まった時、私は荷物を抱えて揺れない地面に足をついた。
座ってばかりで腰が痛い。それは野崎も同じなようで、ぐりぐりとストレッチをしているのがなんだか笑えた。
「行くぞ。タクシーだ」
ひょいと大事な荷物を人質に取られては、追いかけるしかない。いつの間にかつかまえたタクシーに乗り込む野崎を慌てて追った。
「京急百貨店へ」
野崎の注文に運転手は返事をし、滑らかに車を発進させた。
「百貨店? 買い物ですか?」
お土産でも欲しくなったんだろうか。そんな考えが間違いである事くらい、短い付き合いだがわかる。
「俺じゃない、あんただ」
「お金ないからお土産も買えないですよ」
財布には千円札が二枚しかない。
「安心しろ、ツケといてやるから。俺に」
それは安心とは言えない気がする。
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