恋愛はただ座ってるだけじゃ、電車みたいにはたどり着かない。

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このまま引き返してしまおうか。 それじゃなんの為にここまで来たのか。 始発に乗る人達だろうか、次第に賑やかになってくる駅構内。 私は荷物の入ったバッグを抱えて綺麗に磨かれたベンチに腰掛け、忙しそうに行き交う人を眺めていた。 しばらくして、隣のベンチに誰かが腰掛けた。ベンチなんだから座るためにある訳だけど、わざわざ隣に座らなくても……。 パッと見ただけでも仕立ての良いスーツ姿で、高い天井のライトが写る程磨かれた革靴。パリッとノリの効いたワイシャツの襟。 「待たせてゴメンね」 軽い謝罪。浮かべる笑みは爽やかで、涼やかな目元はきっと女性のハートを撃ち抜くのだろう。 残念ながら私はあなたに待たされてはいない。というか初対面だ。 「あなただ……っ」 誰ですか、と問う前に鼻をつままれた。 「待ち合わせに遅刻したからって、他人のフリは酷いよ」 フリも何も、他人だと思うんですけど。
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