恋愛はただ座ってるだけじゃ、電車みたいにはたどり着かない。

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彼が鼻から手を離すと、その涼やかな瞳で私―――ではなく周囲を見渡した。 そして"涼やか"から一気に気温を下げた氷点下の眼差しを、私へ向けた。 「あんた、バカなの?」 初対面の人にいきなりバカ呼ばわりされた。さっきまでの爽やかな笑みはどこへ行った。 「な、なんなんですか。待ち合わせってなんですか、なんでバカだなんて言われなきゃなんないんですか、あなたなんなんですか、し、知らない人ですよね、初対面ですよね、なんなんですか、ナンパですか」 「なんなんなんなんうるさい」 また鼻をつままれた。 フガフガと抗議をすると、彼の顔が急に近付いてきた。今度はなんなのよ、といっそ警備員を呼ぼうかと思っていると、彼の唇が私の耳に息と言葉を吹き掛けてきた。 「あんた、さっきからその辺の男どもに目ぇつけられてんだよ」 「……フガ?」 「ばか、見んな。だから一芝居打ってやったの。ツレがいれば諦めるから……ほらいなくなった」 いなくなったって言われても、見んなって言われた時に片手で両目を塞がれてしまったので、何も見えません。 しばらくしてやっと彼の両手が私の顔から離れた。
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