3人が本棚に入れています
本棚に追加
彼が鼻から手を離すと、その涼やかな瞳で私―――ではなく周囲を見渡した。
そして"涼やか"から一気に気温を下げた氷点下の眼差しを、私へ向けた。
「あんた、バカなの?」
初対面の人にいきなりバカ呼ばわりされた。さっきまでの爽やかな笑みはどこへ行った。
「な、なんなんですか。待ち合わせってなんですか、なんでバカだなんて言われなきゃなんないんですか、あなたなんなんですか、し、知らない人ですよね、初対面ですよね、なんなんですか、ナンパですか」
「なんなんなんなんうるさい」
また鼻をつままれた。
フガフガと抗議をすると、彼の顔が急に近付いてきた。今度はなんなのよ、といっそ警備員を呼ぼうかと思っていると、彼の唇が私の耳に息と言葉を吹き掛けてきた。
「あんた、さっきからその辺の男どもに目ぇつけられてんだよ」
「……フガ?」
「ばか、見んな。だから一芝居打ってやったの。ツレがいれば諦めるから……ほらいなくなった」
いなくなったって言われても、見んなって言われた時に片手で両目を塞がれてしまったので、何も見えません。
しばらくしてやっと彼の両手が私の顔から離れた。
最初のコメントを投稿しよう!