3人が本棚に入れています
本棚に追加
離れた片手がベンチの背もたれにまわされ、まるで肩を組まれているようだ。近いんですけど。
「それと、俺はあんたみたいなオマヌケに手を出すほど女に飢えないし、相手は選ぶ。つまりナンパじゃない」
ムカつく単語ばかりを羅列する男だ。
でもそうだとしたら、この男はもしかしなくても私を助けてくれたのかな。
お礼を言うべきなのか悩んでいると、彼は長い足を組み、私の顔をじっと覗き込んできた。
「身の上話くらいなら聞いてやる余裕と喫茶店ならあるが、この辺は自殺の名所とかはないから、オススメの骨埋め場所は紹介してやれないぞ」
勝手に自殺志願者と決めつけないでいただきたい。
「違います、旅行です。ただの旅行……」
「今にも死にそうな顔してたけど?」
「それは、お腹すいてたからっ!」
「腹減って死にそうだったのか? そこに売店もカフェもあるのに?」
夜に家を飛び出してから、節約の為と睡魔のおかげで食事をしていなかった事を、今まで忘れてたのに思い出させられた。
「カフェや売店があっても、お金がないんですっ」
「……ぶはっ」
大笑いし出した男の隣で私は、泣きたくなった。
最初のコメントを投稿しよう!